飲食料品のみを対象としたゼロ税率の導入は、租税の三原則である中立・簡素に明確に反しています。社会経済に多大な混乱と不利益をもたらすものであるため、実務および制度設計の観点から下記の通り強く反対を表明します。
ほとんど全ての事業者が物価高騰で経営が圧迫されており、価格転嫁に大変な苦悩をしています。このような状況下で、飲食料品の販売のみをゼロ税率とし、10%の価格優位性を与えることは、特定の産業のみを優遇することであり税の中立性に反します。
特に、内食と外食では価格差が広がり、政府が税制を通して「外食から内食へ誘導する」というメッセージを発信することにつながります。この結果「外食産業」に大きなダメージを及ぼすことになります。
どの事業者も苦しい中「食料品の消費税率ゼロ」により飲食料品の販売をする事業者のみを優遇し、その隣接業界にダメージを与えることは許されません。
多くの小規模事業者は消費税に関わる事務負担軽減のため、簡易課税、インボイスの経過措置、小規模事業者の消費税免税の制度を利用しています。これらの制度を利用する飲食料品の販売を行う事業者はゼロ税率の恩恵を受けることはできません。むしろ逆に仕入れや経費にかかる消費税を負担することとなり、ゼロ税率導入前よりも負担が大きくなり経営を圧迫します。
このために、これらの事業者は仕入等の消費税還付を受けるために原則課税の方法を検討することになります。原則課税は、インボイスの有無、複数税率、外国企業への支払い消費税の対応など、経理担当社員がいない規模の事業者にとっては煩雑で正確な処理を行うことが困難な計算方法です。他の事業を兼業する事業者には、その計算はさらに一層困難なものとなります。
導入後3年を経過しようとするインボイス制度の理解ですら進んでいるとは言い難い現状で、これらの煩雑な消費税の業務を小規模な事業者に強いるだけの環境は整っていません。小規模な飲食料品の販売を行う事業者は、複雑な原則課税を導入するか、負担増加を受け入れるかの二者択一となります。
「食料品の消費税率ゼロ」は飲食料品の販売を行う小規模事業者にとって、受け入れられる制度的な土壌が整っていません。
ゼロ税率の導入は、消費税の還付申告の爆発的な増加につながります。
原則課税の増加により消費税申告の誤りが増加することに加え、現在の輸出免税制度がそうであるように、還付申告は不正(虚偽の還付請求)の温床となります。税務当局が食料品小売業者や 農家などからの数十万に及ぶと考えられるそれらの還付申告すべてを精査し、迅速に適正な還付を行うことは極めて困難であると考えられます。
税務当局は不正監視に行政能力が割かれ、還付が遅れることで事業者の資金繰りを圧迫することとなり、さらには行政手続、税務調査や指導が疎かになることとなると考えられます。
「食料品の消費税率ゼロ」は、消費税制に不正利用につながる大きな穴を生み出し、行政の効率性を大きく毀損することとなります。行政の混乱が進めば、日本の誇るべき税務の信頼性は崩壊しかねません。
このように、特定の品目の消費税率のみを下げる「食料品の消費税率ゼロ」は、様々な問題を抱えています。これらの問題を解決することは極めて簡単です。
「やらなければいい」だけです。
私たちは「食料品の消費税率ゼロ」の撤回を求めます。
以上の署名本文について、賛同していただける様々な方の声を集め、然るべきところに届けたいと思います。ご協力をどうぞお願いいたします。
下記には、その中でも、税務の専門家も署名しているということを示すために、賛同をいただき記名の許可をいただいた税理士の方の氏名を順次掲載しています(順不同、敬称略)。
近畿税理士会 宇治支部 白井一馬
東海税理士会 小牧支部 安藤宣貴
東京税理士会 王子支部 鈴木まゆ子
東京税理士会 四谷支部 山浦佑太
東京税理士会 四谷支部 安藤善教
東京税理士会 四谷支部 村田顕吉朗
東京税理士会 四谷支部 藤田正男
東京税理士会 四谷支部 小林ゆみ
東京税理士会 渋谷支部 飯室真人
東京税理士会 神田支部 金子真一
東京税理士会 北沢支部 北野良典
東京税理士会 目黒支部 鳥山昌秀
東京地方税理士会 甲府支部 小笠原光規
東京地方税理士会 甲府支部 間洵子
名古屋税理士会 岐阜北支部 佐藤豊和
名古屋税理士会 千種支部 水野誠
名古屋税理士会 名古屋中支部 河村誠
名古屋税理士会 名古屋中支部 長尾幸展
名古屋税理士会 名古屋中村支部 鳥居翼
名古屋税理士会 名古屋中村支部 安藤雅康
名古屋税理士会 名古屋東支部 佐藤昌哉
名古屋税理士会 名古屋北支部 濱田和希
東京税理士会 渋谷支部 三村雄一
2026年3月20日
社会保障国民会議の有識者に署名を送付
出典:税法学 573号
複数税率導入時において日本の消費税が「単一税率と高い効率性をもつ理想的な付加価値税」として導入されるに至った経緯から、税のあり方について言及されている論文です。
出典:IMF eLIBRARY 1988年
IMFは、食料品の零税率化に対し以下の理由から批判的な見解を示しています。
①公平性:富裕層ほど絶対的な支出額が多く、減税の恩恵をより多く受けるため、低所得者対策としての効率が悪い 。
②不完全な免税:生産過程の肥料や燃料などへの課税分が、最終的な食料品価格に「隠れた税」として残り続ける 。
③税基盤の浸食:免税対象の拡大は、財源確保のために外食などの他産業に高い税率を強いるという経済的歪みを生む 。
④事務負担:還付手続きの複雑化や、境界線の曖昧な食品の定義を巡る不毛な法的紛争を招き、社会的なコストを増大させる 。